ARENT

プラント建設をくつがえす。“same boat”で闘う。

SPECIAL INTERVIEW

鴨林

株式会社Arent
代表取締役社長

鴨林 広軌

愛徳

千代田化工建設株式会社
配管設計部

株式会社PlantStream
代表取締役社長

愛徳 誓太郎

熟年設計士でも数ヶ月を要する大規模プラントの設計が「秒」単位にまで圧縮できる、革新的な「自律型CAD」。その開発を、世界に先駆け推し進めているのが、Arentと千代田化工建設の合弁事業「PlantStream」です。業界全体が注目する、画期的なプロジェクトはいかにして始まり、困難を乗り越えていったか。キーマンであるArent CEOの鴨林、そして一介の社員からJV代表へと大抜擢された愛徳氏の二人が語ります。

作ってなんぼ。コンサルであっても具体的な成果物ありき。

組織の垣根を超えて困難を共にしてきた愛徳さんと鴨林さんですが、
そもそもお二人の出会いは?

愛徳

千代田化工が「配管設計の自動化」について、いろんなAIベンチャーとPoCをやってた頃ですね。鴨林さんとお会いしたのは2018年の5月15日。

鴨林

めっちゃ覚えてますね(笑)。

愛徳

もちろん。最初にお会いして自動化について相談した時、鴨林さんからガツンと言われたので。まだAIではない、それよりもまずは特化型CADを作るべきだと。Arentのエンジニアの方からも技術的な回答をいただき、その回答が本当に我々の構想とマッチしていて、それがArentと一緒に開発をやろうと思ったきっかけです。

鴨林

建設色のきわめて濃い案件なので、CADに強い担当者を連れていき話をさせました。大北というエンジニアなんですが、彼はすごくきっちりとプラント建設を勉強していて、愛徳さんとお話ししながら、その時点で目指す方向性は完全に見えましたね。

愛徳

実質2時間で、もうこれでできるなと私の方が確信したほど。そしたらあとは社内にどう説明するかです。AIブームが起こっていた時期でもあり社内はAIありきで考えていたので、いちからCAD開発なんて本当にできるのか?と。そこは粘り強くArentさんの技術力で一個一個、みんなの不安を払拭していった。

鴨林

やっぱりみなさんに納得していただけたのは、2、3ヶ月で確実に作れるPoCを最初に提出して、少しずつ規模を大きくしていったから。それがうちの特徴でもあるのだけど、上長に承認いただくには、できることの質と規模を具体的に証明するのが重要なのかなと思います。

愛徳

まさにスモールスタートで、結果を出しながら進めましたよね。

鴨林

うちが出した球を愛徳さんが上長にプレゼンし、さらなる予算を承認いただいて、どんどん大きなプロジェクトにしていった。いわゆるアジャイルやスモールスタートの正しい成功パターンだと考えてます。

「まだAIではない」というのは、どんな理由から?

鴨林

前提となるビッグデータが不足していて、AIに精度が期待できませんでした。もちろん今後AI導入の可能性はありますが、現段階ではそれよりも普通に実装しましょうと。プラントエンジニアの情報を整理すると、AIに依らずとも、数式化できる明確なロジックが認められたので。

愛徳

当時、自動ルーティングのプロダクト開発ができる会社を探してたんですが、AIベンチャーの中からは優れた回答がなくて。唯一答えを提示してくれたのがArentさんだった。

鴨林

一見、なんとなくAIで解決できるように思えるので「AIを使いましょう」から入ってしまう。この案件を実装までもっていくには、まず大前提としてプラント自体の勉強がマストなんです。なのに、みんなそこの汗を避けていた。プラントは非常に奥が深いですからね。

愛徳

AIベンチャーさんとギャップを一番感じたのはヒアリングミーティングの多さ。これはArentさんがプラントに対して貪欲に学ぼうとしていたことの証だと思ってます。一般的なAIエンジニアの場合、もらったデータを数値処理して、それをもって「プロダクト」だとするところ。しかしArentは、深いところに手が届くというか、まずは対象の理解と課題の把握を徹底的に行った。理解し解決しようとする姿勢が違いましたね。

鴨林

最初から普通のコンサルっぽいコンサルはしませんと言っていて、とりあえず2、3ヶ月でプロトタイプを作らせてくれとお願いしていました。

愛徳

当時すでにAIを前提として予算を取っていたので、社内の流れを変えるのもなかなか大変で。でも、鴨林さんがよく言っていたのが「プロダクトを作ってなんぼです」と。たとえコンサルティングでも、アウトプットを出さなければ意味がない。本当にArentさんの技術力が出た。

最初から鴨林さんはそこまで到達できると見えていた?

鴨林

もちろん見えていました。社内でとにかく議論したんですよ。愛徳さんの思いはこうだと僕が伝えて、課題の抽出と解決の見通しまでがそこで立った。視界は晴れたので、あとはかっちり進めていきましょうという感じでしたね。コンサル目線だけではこの案件は道筋は見えにくくて、同時にエンジニア目線が欠かせません。エンジニアから見ると、システムと数学を組み合わせたら解決できると目算がはっきり立つ。課題と手段の解像度の高さが、システムエンジニアの経験の持つコンサルタントの圧倒的強みです。

関係者みんなをチームに巻き込み、突破する。

プロジェクトが本格的に始動し、まずは何から着手しましたか?

鴨林

かなり大規模になるとわかっていたので、人材登用はとにかく進めましたね。チームビルドこそが最重要課題。弊社メンバーにも、自分の知っている優秀なエンジニアを連れてきてほしいとお願いしました。元々CADに強いエンジニアは数人いたんですが、もっともっと際限なく必要で。そしたら次第に優秀なエンジニアから興味を示してもらうようになって、今は50人ぐらいかな。結局、メンバーの能力や総熱量が作れるモノの上限なので、プロダクト開発の際に思い切って人を増やすのはすごく大事なことだと思ってます。

愛徳

経営者として固定費を増やすのは心配じゃなかったですか(笑)

鴨林

それも千代田化工さんがしっかり予算確保してくれたので(笑)。愛徳さんの本気度は伝わっていて、毎月ちゃんと良いプロダクトを見せてくれれば必ず通すと言ってくれたので、どんどんアクセル踏んでいくことにしました。

愛徳

もうね、できると言うしかないので(笑)。もちろん社内的には、不具合が出ると「お前の構想はなんだ」と言われるんですが、全然超えられる壁だと思っていました。

鴨林

よくチーム、チームと私は言うんですが、愛徳さんと我々はもちろんのこと、さらに承認する上長の方も含めてチームなんですよね。みなさん巻き込まなければいけないんです。企業の上に行くにしたがって政治も戦略も複雑になるので、関係者みんなをチームメンバーとして巻き込みながら突破してゆく。

最初の段階で開発計画やマイルストーンは決まっていましたか?

愛徳

はい。社内には大きなゴールを示した上で、大まかにマイルストーン出しました。細かく設定することは、アジャイル開発に向きませんからね。一つ目の開発項目にいきなり難所のブロックパターンという機能があり、これを超えさえすれば大体あとは問題なく進行可能なステップを設定していました。

鴨林

この時点で、プロダクトのアウトラインが明らかに世界レベルだと僕らには見えていて、もう本当にチャレンジングなんですよね。優秀なエンジニアほど、そういうことがやりたいって人が多いですから。

愛徳

それをみなさんに伝えて、この夢に向かって行こうと。

鴨林

愛徳さんと僕らの関係も「要件定義をするお客さん」と「それを実装するシステム会社」ではなくて。そこは同じ船を漕ぐ間柄として、ともに厳しく理想を追求してゆきました。

実際にプロダクトが少しずつ出来上がってきて、社内の評価はどうでしたか?

愛徳

ある意味、私以上に要望が熱くなっていった(笑)。もっと自動化したいとか。そういう反応はやはりプロダクトがいいから出てくるわけで、実物を見せるって大事なんだなと思いました。プロジェクト始動から大体8カ月ぐらい経った頃ですかね、プロダクトの出来を見て数億の追加予算を確保し、併せて事業化の検討も始まった。

鴨林

大体最初は企画書を持っていっても、みんな無関心なんです。プロダクトが登場して初めて批判がもらえるんですよ。こんなんじゃダメだとか、現場では使えないよとか。当然その時点では現場で使えるような状態ではないので批判は折込済み。それよりも意見が出てくることが大事で、要は周りを巻き込め出したなという手応えがあるかどうか。良くも悪くもリアクションは、まずプロダクトがあってこそだと思います。

愛徳

社内の評価会って4回くらいやりましたっけ?ほぼ毎回、鴨林さんにも参加してもらったんですが、回を重ねるごとに聴衆が増えていくんですよね。最初は15、6人くらいの開発報告でしたが、次は30人になり、最終的には100人になった。それこそ上の方々や設計部員まで。そうしたら、みんなどんどん言いたいことが増えるので、いろんな視点からコメントもらえるようになったなと思う。

鴨林

こちらとしてもプロダクトが良くできているので、むしろ見てほしいし、ツッコミがほしい。ポジティブな意見が最高ですけど批判だってありがたい。

愛徳

あと千代田化工側が一番評価していたのは、Arentのエンジニアの説明がプラント技術者と見まがうほど専門的だったこと。それくらいみなさん勉強されているというのが我々社内でわかって、Arentの覚悟が伝わった。エンジニア同士で共感する部分があったのかなと思います。

職人の技術をマネタイズする新たな道筋となる。

そこから当初のスコープになかったJV「PlantStream」を作り、
システムの外販へと動き出す。どういったきっかけが?

鴨林

Arent視点で言うと、このプロダクトの開発が途中で終了したらもったいないと思ったから。元来、システム開発は長期的に改善が繰り返され、それでもって競争優位になり他の追随を許さないデファクトスタンダードに至ります。が、外に売らずに内部だけで使っていると、ある地点の性能で「よし」とされる。なんとなく「完成」を迎えてしまい、開発の歩みは遅々となり、そしていつか、より優れた他のシステムに追い越されてゆく。外に売るというのは、プロダクトの「強さ」を保つ上で欠かせないと考えました。ただ「販売」は当然「開発」とは別の莫大なカロリーが発生するのでリスクテイクが必要。だとしたらJV化して、同じリスクをArentも引き受けようと思った。開発の手を緩めずに続けやすくなるし、成功したら愛徳さんたちと同じ立場で一緒に喜びあえる。そんな考えでご提案しました。

愛徳

例えばJVなのか、それとも業務提携でレベニューシェアなのか。うちの中でも協業のスキームはかなりあるんですが、僕が取ったのは、鴨林さんが言ったように「Same boatで闘う」という選択肢、つまりJVだった。Arentさんがゲームやソフトウェアの販売もされているので、そこの知見は活かそうよと。さらに、ArentのCAD技術と我々のプラント技術の融合なんだから、やっぱりお互い50:50でいこうよと。それが社内意見の総括ですね。そもそも外販は、私個人は見据えていたんです。が、社内ではスコープにまったくなかった。当然ですよね。自らの強みをシステム化して、競合他社に売ろうと言っているのですから。それを、さっき言ったようにプロダクトでそういう意見を賛同へと変えていき、事業化の決定に至りました。本当にすべてはプロダクトだと思います。

鴨林

最初の核としてプロダクトがあれば、完成度が上がるごとにみんながどんどんついてきてくれるし、反対の方々も最後は納得してもらえます。確かに現実的だ、確かにその手はあるとみんなだんだん価値に気づくので。

愛徳

実際そうでしたからね。価値への気づきと言えば、個人的に今回のプロジェクトで一番画期的だと思っているのが、プラントエンジニアに新たなバリューが見出されたことなんです。手を動かして設計することで利益を生む、これまでは当然それが彼らの存在意義だった。でも、こういうソフトウェアを出すことによって、エンジニアリングの価値が別の形で具現化された。彼らの特殊なノウハウをマネタイズする新たな道筋ができました。これは千代田化工が再生計画に掲げるエンジニアリングの価値の再定義に他ならない画期的なことだと思っています。

鴨林

これは日本全体に言えることだと思うのだけど、ノウハウや知識のマネタイズをもっとうまくやらないといけない。日本の技術でしかできないことってまだまだあるのに、そのオンリーワンな価値が全然上手にマネタイズできてないんですよね。ものすごくもったいないと思っています。

愛徳

確かに。この手のモデルは日本の至る所にあるんでしょうね。熟練技術者のノウハウが効率的に現金化されず、本人の中で死蔵されたままになっている。若い世代にしっかり引き継ぎさえされていない。

鴨林

もったいないですよね。でもある意味ではそこは日本の伸びしろで、ちゃんと形式知化してシステムに昇華すれば、日本の様々な産業が息を吹き返す余地があると思っています。

その先鞭であり代表格がプラントエンジニアリングだということですね。

鴨林

その通りです。そしてやるからには徹底的に。組織のあり方から作り方まで、プラント建設そのものをダイナミックに変えてゆきたい。

愛徳

既存のワークフローを革新できるプロダクトだと思っています。まずは千代田化工、その次に数多のプラントユーザーさんへと展開していく。そして、全世界のプラント業界のワークフローを一変させるというのが大目標ですね。

鴨林

たとえばナフサをガソリンに変えたりとか、プラントって世の中に存在するものを、より価値ある形態へと変換する設備ですよね。そういう意味でも我々の「PlantStream」は、プラントを変え、この世界の生産の流れそのものを変える、そんな意気込みも名前にこめている。エネルギーの流れやモノの流れ、そういう社会を下支えする底流を変えていこうというのが、つまるところ今回のプロジェクトだと思っています。夢は大きく、ですね。